2004年9月12日日曜日

高コスト・高利潤・高価格の日本農業(立花隆)


日米農業の生産性格差=国際競争力を失った高コスト・高利潤・高価格の日本農業(立花隆)


立花隆『農協』第8章は、日本農業を国際的視野のもとにとらえ直す。日本農業はなぜ、どれだけ国際競争力を失ってしまったのか。驚くべき事実が浮き彫りになる。

抜き書き:
  1. アメリカの巨大な農業は、わずか270万の農場で営まれている。農場の9割は家族経営。ところが日本の農家戸数は480万戸。アメリカの27分の一の耕地、500分の一の牧草地にアメリカの1.8倍の農家がひしめき合っている。
  2. 生産基盤においてこれだけの差がある上に、アメリカは、労働生産性が非常に高い。アメリカのコメの生産労働時間は、10アール当たり2〜2.5時 間(日本は72時間)。小麦は10アール当たり0.7時間(日本は22.6時間で32倍)。肉牛肥育労働時間は生体重100キロ当たり1.3時間(日本は 16.5時間で13倍)。
  3. 機械化がアメリカの方が合計では進んでいるが、単位面積当たりの馬力で行くと、驚くべきことには日本の方がアメリカよりトラクター普及率が高い。 耕地1ヘクタール当たり、アメリカは1.3馬力に対して日本は5馬力で4倍。大型農機具全体への年間投資額もアメリカは一戸当たり47万円に対し日本は 18万円。戸当たり絶対額では日本の方が安いが、経営規模が30分の一であることを考えれば、とてつもない過大投資となっている。1ヘクタール当たりの装 備率は日本は100万円に及んでいるが、アメリカはその13分の1である。
  4. これだけ大きな規模と生産性の格差があれば、アメリカの農民は日本の農民に較べよほど金持ちであるはず。ところが意外や意外、一戸当たりの平均所 得では日米ほとんど互角。アメリカが414万円に対して日本は400万円弱。1ドル260円換算であり、それ以上の円高となると日本の農家の方が所得が上 になってしまう。アメリカでも兼業農家の比率は高いので兼業云々では説明できない。
  5. これは日本の農産物価格の高さと農家マージンの高さが原因。生産者価格の比較では玄米60キロ換算でアメリカが4400円に対し日本は1万 7000円で4倍近い。麦だったら6倍。肉牛だったら3倍。更に生産者利幅は、アメリカは平均18%だが日本は58%で3倍。日本の農家は、高いコストの 農産物に更に高いマージンを乗せて売っている。
  6. もちろん自然条件の差というものがあるが、それでもとても容認できるような差ではない。日本に於いても共同化などで規模拡大を図れば一挙に相当のコスト削減は可能である。いまの過保護農政の上にアグラをかいている意欲のない農民が離農させ農業人口がもと減らすべきである。
  7. 実を言うと、アメリカでも、60年代初期には農業の過剰人口と政府の過大な農業保護再生支出に悩んでいた。当時は農業がアメリカのアキレス腱で あった。そこで、米経済開発委員会(CEO)が「農業人口三割削減論」という政策を提出し、大論争になったが、結局その後の展開は、アメリカの農業人口は 三割以上減り、アメリカの農業は足腰が強くなった。

非常に考えさせられる話である。やるべきことは余りにも明かである。日本の農業人口のドラスティックな削減なしにして日本の農業の将来はない。

日 本の勤労者の所得は名目比較では米国の勤労者の所得を上回っている。しかし米国より異常に高い食料品価格のおかげで、実質所得は大きく米国を下回る。日本 の農家の所得は日本の勤労者所得より高い上に、食料はただである(地消地産)。まさに「いいとこ取り」だ。かくして世界でももっとも生産性の低い日本の 「駄農」の実質所得は世界で「断トツ」の高所得となる。それは、世界で有数の高生産性を誇る日本の都市勤労者が彼等に貢いでいるからであり、その結果、日 本の都市勤労者世帯の実質生活水準は先進国で一番低いものに押し下げられている。

やがて農村人口がだんだん減ってくるのであればそれでよいが、そうでもない。こういう安易な生活になれてしまい、都会に出て激烈な競争に身を晒そうとしないで農村に引きこもり農家の親にパラサイトする若年層の「農村オタク」が増えているのだ(ここ)。彼等は日本経済にとっての寄生虫でしかないが、環境とか自然保護とか食品の「安全(?)」とかの名目をでっち上げ、ナイーブな都市住民をだまくらかしている。もういい加減に、都市住民は彼等にだまされるのはやめにするべきではないか。

農協
立花 隆

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Posted: Sun - September 12, 2004 at 02:45 PM   Letter from Yochomachi   農業問題  Previous   Next   Comments (7)  

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